冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「ねえレイ……もう謝らないで。私はもうレイを許しているから」

 レイと目を遭わせて微笑む。もしかしたら引き攣った笑みになってしまっているかもしれないけど。

「こうなってしまったのは悲しいけど、でもレイと一時でも本当の恋人になれた事は私にとって幸せな事だった。諦めて愛のない結婚をしていたらきっと感じる事の出来なかった気持になれたんだもの」
「ローナ、俺は……」

「もう会わないなんて言ってごめんね。まだレイとティアナ様の前に立てないけど、いつかふたりを祝福出来るようにするから」

 だからもう少し時間を頂戴。そう続けようとした言葉はレイの怒鳴り声によって阻まれた。

「ローナ聞け!」

 突然の大声に目を丸くする私に、レイはハッとした様子で肩を落とした。

「悪い……だけど聞いてくれ。俺とアストン家のティアナ嬢は噂されているような関係じゃないんだ」
「え……何を言っているの?」

 混乱する私に、レイは訴える。

「俺が愛しているのはローナだけだ。他の女に心変わりした事なんて誓って一度も無い」
「でも……私自分の目で見たのよ? あの東屋でレイはティアナ様に……」

 優しく微笑んでキスをしようとしていた。

 決して忘れられない光景が蘇る。
 怒りや悔しさは消化出来ても悲しい気持ちを消す事はまだ出来なくて胸が痛い。

 だって私は今でもレイが好きなのだから。

 声も無く新たな涙を流す私を、レイは痛ましげに見て、そっと涙を拭ってくれる。

「理由が有ってふりをしただけだ。まさかローナに見られているとは思わなかったんだ」
「ふり? そうだとしたらどうして言ってくれなかったの? あの時レイは言い訳一つしてくれなかった。だから私はそれがレイの答えなのかと思ったの」

 戸惑う私の問いかけにレイが答えようとしたその時、

「レイ、話は後にしてまずはここを出るんだ」


 低く涼やかな声が私達の会話を中断させた。

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