冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 レイは声の方へ振り返ると苛立ったように舌打ちをした。

 それから素早く上着を脱ぐと、私を抱き起こし脱いだ上着を肩にかける。

 前が開かないようにしっかりと止めながら、つい今がた舌打ちしたのとは同一人物とは思えない程優しい声音で言った。

「ローナ。この建物は古くて危険だから今すぐ脱出する。あとでゆっくり話し合おう」
「え、ええ……」

 聞きたい事は沢山あるけれど、レイの言う通り危険な場所ならば早く逃げないといけない。

 私が頷いたのを確認すると、レイは私の肩に手を伸ばした。

「大丈夫か? どこか痛いところはないか?」
「大きな怪我はしてないわ。大丈夫よ」
「……安全な場所に移動したら医者に診せよう」

 レイは壊れ物でも扱うように私を抱き上げると、ゆっくりと歩き出す。

 ぼんやりと捕らえられていた部屋の様子に目を向けた私は、そこに居るはずのない人物の姿を目にしてレイの腕の中で硬直した。

 その人は初めから私を見ていたようで、逸らす間もなく、視線が重なってしまった。

「なんとか間に合ったようでよかった」
「お、王太子殿下?」

 この薄暗い牢に最も相応しくないと思われる人物。

 我が国の王太子殿下の姿がそこにあり、有ろう事かレイの腕に抱かれた私の様子をじっと見つめている。

 この状況……いったいどういう事なの?

「この髪あいつに切られたのか? 美しい髪を……許せないな」

 王太子殿下の怒りの声に私はびくりと身体を震わせる。

< 64 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop