冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 結婚相手を探していたのはレイだけじゃない。私も相手を探しているところだった。

 社交界デビューを済ませていた私はいわゆる結婚適齢期だし、ルウェリン家のおかれた状況としても、早く私の縁談を纏めなくてはならない状況だった。

 ここ三年続く悪天候で領地からの税収が減った為、ルウェリン男爵家の財政はかなり逼迫していた。

 アークライト公爵家のように、貿易やその他の商売をしていないルウェリン男爵家は領地での作物収穫が収入の全てだ。

 父も祖父もとても優しい人だけれど、商売の才能はあまり無かった。それではいけないと、三歳年上の兄が他の収入を得る方法を勉強しているけれどその効果が出るのはおそらく数年後。

 現在の困窮から脱出するには多額の臨時収入が必要で、その手段として最適なのが私の結婚だったのだ。

 私が実家を援助してくれそうな相手の下へ嫁ぐ。
 そうすれば家族皆が助かるし、領民達の暮らしも楽になる。

 自分の結婚が皆の為になるなら、私としても幸せだ。だから結婚する事に不満は無かった。

 だけど……自分と同じような立場の没落しかけた下級貴族の家の娘達が、親よりも年上の相手の後妻になり苦労しているところや、滅多に里帰りが出来ないような辺境な地に嫁ぐ事が決まって嘆いている姿を見ている内に結婚に不安を覚えはじめた。

 貴族としての身分が低い上に、満足な持参金も用意出来ず、逆に経済的援助を要求するような立場の私に、良縁が訪れる訳はない。
 そんな現実に気付いてしまったのだ。

 かと言って結婚は避けられない。

 家同士で話が纏まってしまったら私が相手を不満に感じても断る事は出来ない。
 もし、結婚相手が性格、外見に問題ありの、とんでもない相手だったらどうやって気持ちに折り合いをつければいいのだろう。
 結婚生活は今迄の人生よりもずっと長く続くと言うのに。

 そんな風に悩んでいる時、タイミングよくレイから「俺と婚約しないか?」と話を持ちかけられた。
 条件を飲めばルウェリン家への援助も惜しまないと。

 私は少し躊躇っただけで、受け入れてしまった。
 不安しかない見知らぬ相手に嫁ぐより、恋心はなくても幼い頃から気心を知るレイに嫁いだ方がましだと思ったのだ。
 アークライト公爵家なら、ルウェリン男爵家への援助など何の苦もなく出来るから安心出来るというのもある。

 だけど純粋な愛情から婚約したと思い祝福してくれるエレインに対しては、少し後ろめたさを感じてしまう。
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