冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
「アストン家の家人による必死の捜索は実を結ばなかった。だが実はそれより前に、アストン子爵家の嫡男。ティアナの異母兄が、家族には秘密にティアナと接触をして交流を始めていたんだ。私がティアナと巡り合えたのはその縁でだ」

 王太子殿下はそう言うと、とても愛しそうな目でティアナ様を見つめた。

 王太子殿下は本物のティアナ様を愛しているのだと分かる。

「年老いたアストン子爵が娘を探すくらいなら問題無かったんだが、それを利用しようとする人間が現れた。それが偽ティアナとアストン子爵夫人だ。彼女達は本物のティアナに成り済まし、強欲にも財産を相続しアストン家を乗っ取るつもりだったのだろう」

 王太子殿下は相当腹に据えかねているようで、怒りを吐き出すように大きく息を吐く。

「それ以外にも数々の悪事を彼女達は重ねて来た。王都で頻発した若い女性を攫う事件も彼女達の仕業だ。若く美しい女性を攫い、他国に売っていた」

 なんて酷い事をするのだろう。
 突然連れ去られる恐怖を経験した身としては、犯人達を厳しく罰して欲しいと思う。二度と被害者が出ないように。
 そんな風に考えていて思い出した。

「もしかしたら、プラムで私達を襲おうとしたのもアストン家の者だったのですか?」

 私の質問にそれまで黙っていたレイが答えた。

「そうだ、だがあの時の目的は人攫いではなかったようだ。あれは俺とローナをこの王宮から追い出すために雇われた者達だ」
「追い出す? だからあの時……」

 あの反抗者たちはレイの事を殺してもいいと言っていたんだ。

「あいつらは通りすがりではなく、初めから俺達ふたりを狙っていた。あの戦いでそれは簡単に見抜く事が出来た」

 私が向日葵畑の中で震えている間に、レイは戦いながらそんな事まで頭を巡らせていたんだ。

 レイの言葉を受けて王太子殿下が再び話し始めた。

「プラムから帰って来た時のレイは大変だったな。直ぐにアストン家を潰すと言い出して抑えるのに苦労した」
「潰すって、どうして?」

 レイに問いかけると、気まずそうな返事が返って来た。

「ローナの事を知られたからだ。俺はプラム行きの前からアストン家に目の敵ににされていたんだ。アストン家の希望する政策をことごとく潰し、サイラスと共にティアナの入れ替えの事も暴こうとしていたからだ。だがまさかローナにまで手を出して来るとは思わなかった」
「貴族への暴行は重罪だからな。レイへの恨みだけでローナ嬢に手を出すのはリスクが高過ぎる」
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