冷酷な公爵は無垢な令嬢を愛おしむ
 甘いものを食べたり、知り合いと挨拶を交わしたりしているとレイが迎えに来た。

 エレインも一緒だ。友人達との語らいが楽しかったのかふたり共機嫌がいい。

「お話は終ったの?」

 私の問いにレイは笑顔で頷きながらエスコートをするべく腰に手を回して来る。

 そうなるとかなり密着してしまう事になるが立場的には婚約者なのだから仕方無い。
 ドレス越しのレイの手の感覚は無視して、エレインに声をかけた。

「エレインはどうするの?」

「私もそろそろ帰りたいけど無理だわ。サイラス殿下に呼ばれているの」

 エレインはいかにも面倒そうに溜息を吐いた。
 サイラス殿下と言えばこの国の第一王子で王太子の地位にある方だ。
 レイを抑えて社交界結婚したい男性第一位と言われている。

 私は直接言葉を交わした事は無いけれど、夜会の時などにレイが言葉を交わしている姿を遠目に何度かみかけた。

 濡れたような艶やかな黒髪に紫紺の瞳の端整な顔立ち。高い政治力を持ち有能だと評価されている王太子からの呼び出しに嫌そうにする令嬢なんてエレインくらいだろう。

「王太子殿下に声をかけて頂くなんてとても光栄な事じゃない、羨ましいわ。お待たせしないように早く行った方がいいわよ」

 エレインがどう思っているかは別として、とりあえず王太子殿下を待たせるのはまずいだろうと思い言った直後グイと腰を引き寄せられた。

「ローナ、俺達は帰ろう」

 先ほどより機嫌の悪くなった様子のレイが言う。

「え?……ええ、分かったわ」

 さっさと歩き出すレイに戸惑いながら私はエレインに挨拶をした。


 私の腰にしっかりと手を回し、かなり強引とも言えるエスコートで玄関ホールへ向かって行くレイは、相変わらず人目を惹くようで周囲の視線が集まった。

 レイはそんな事は気にしていない態度で玄関を出ると待機していたアークライト家の馬車に私を押し込め、自分も素早い動きで乗り込んだ。
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