COUNT UP【完】
「さっきの話の続きだけど、ユイは俺が軽い男だと思ってる?」
「思うなって方が無理」
「なんで?キスするから?」
「そう」
「理由があればキスしていいのか?」
「そういうことじゃない」
「俺がユイを好きならいい?」
「なんでそういう言い方するの?」
いつもそう、あたしに話しかけるときは疑問形ばっかりで極端。
会話っていう会話じゃなくて質問と回答だけで世間話なんてほとんどない。
「ミノルはどうしたいの?送り迎えはポンちゃんに頼まれたから?あたしの気持ちってどうでもいいんでしょ?」
「ちょっと待って。ユイ、うちに行こう」
ヒートアップし始めたあたしに気付いたのか伝票を持って会計にいってしまった。
俯くあたしの手をひいたのはミノルで、引っ張られながらポンちゃんの元へ歩いた。
ポンちゃんは寄るところがあるからミノルのバイクで家に行くように言う。
ポンちゃんと帰りたいと言ったのにダメだの一点張りで渋々諦めた。
ポンちゃんが車を出すまで見てたのをミノルはまた手を引いてくれる。
駐輪場まできて上着を持ってきてないと言うとバイクから上着を取り出した。
「これ、ミノルが着てたヤツでしょ?」
「すぐそこだから着なくてもいける。それよりスカートだな」
苦笑するミノルにあたしも苦笑するしかない。
黒のタイツにミニスカート。
大判ストールを持ってたからそれで隠すことになったけど。
色々見えない方法を考えたけど、見えちゃうもんは仕方ないってことでいつもどおり乗ろうとしたら「それはやめろ」と止められた。
ミノルは自分の首に手を回すよう言うとあたしを抱えて持ち上げた。
座ってストールで隠すと体勢を戻して溜息。
「なによ」
「なんでもない」
なんでもないって言い方じゃないけど、今のことだってのはわかるから何も言わなかった。
いつもどおり大学に行くときみたいな雰囲気。
メットと上着を渡されて身につけると動き出したバイク。
タートルネックを着ていたけど寒そうだったからいつもより少しくっついた。
「まだ帰ってないんだ」
ポンちゃんの車がないから合鍵で開けて入った。
「合鍵持ってんの?」
「互いに家の合鍵持ってるよ」
普通はありえないよね、と言うと「本当に特殊だな」と言われたからポンちゃんから少しは聞いてたのかもしれない。
キッチンに入ってポットでお湯を沸かす。
勝手が分かってるから自由におもてなしをする間、ミノルはソファーに座った。
本当はポンちゃんと一緒に帰ってミノルが言う“本当のこと”を聞き出したかった。
でもスカートを穿いてるあたしをミノルのバイクに乗せるというのはそれに対するポンちゃんの拒否表示で、それがわかったから黙って言われたとおりにした。
あたしだってバカじゃないし、そのくらいの空気は読める。
それにあのままポンちゃんと帰っていたら絶対喧嘩してた。
何も教えてくれないポンちゃんにミノルのことも今までのこと全部ポンちゃんに強く当たってたと思う。
ポンちゃんがミノルと帰れって言ってくれただけで今は冷静になって落ち着いていられる。
とりあえずコーヒーを作ってミノルに渡す。
ミノルはブラックであたしはミルクだけ。
隣で座るのはなんだか気まずくてあたしは食卓テーブル側に座った。
少しの間は無言が続いて、それを破ったのはあたしからだった。
「ミノルは優しいって評判だから、あたしも皆と同じ対応してくれてるんだって思ってる。あの日、ポンちゃんと二人であたしを起こしにきたのもポンちゃんが就活で忙しくなるからポンちゃんが頼んでやってくれてるんだって思ってる。なにが本当で何が違うの?」
いつも冗談なのか本気なのかわからないミノルとわかりあうには本音しかない。
あたしが思ってることをミノルに言わないとミノルも本音を言ってくれない。
ミノルはソファーから立ち上がり、あたしの前に座った。
「俺は誰にでも優しいわけじゃないし、ユウホに頼まれたからやってるわけじゃない。俺がどうしてお前を知ってるか知らないだろ?」
ミノルと目を合わせ首を傾げると徐々に話し出した。