COUNT UP【完】
「俺はユウホと入学当時から友達で、お前のこともその時から知ってる」
ミノルはポンちゃんがあたしを連れて登校しているのを見ていたらしい。
最初は彼女だと思ったらしいけど幼なじみとわかってポンちゃんには世間知らずなお気楽女だと紹介されたらしい。
「ユウホにユイを紹介しろって言った時はだいぶ怒られてさ。幼なじみだけどマジで好きなんじゃないかと思った」
でも今となっては理由がわかる、と一人で納得する。
「講義も一緒のやつとってみたりして話す機会を作ろうとしてみたけど、大好きなポンちゃんのツレがこんな男だってわかったらユウホのイメージダウンになるだろ?実際最初は嫌られてたし。だからユウホがお前を紹介するって言うのを待ってた」
いつもふざけた話し方なのに真面目に話してるミノルを見て、この人誰?って感覚だった。
いつもみたいに“だからなに?俺がしたいんだからしていいんじゃないの?”みたいに言われると思ってたのに予想外。
こういう一面があるからポンちゃんは友達なのかな?と思えた。
それにしても、あたしは知らないのにミノルは知ってるってなんか不思議。
講義が一緒だなんてポンちゃんからミノルを紹介されるまで知らなかった。
“待ってた”なんて、ミノルらしくなくて変な感じ。
「結局、俺から話し掛けないまま3年過ぎようとしてたら俺の粘り勝ちでユウホがお前を紹介するって言った。それが俺の誕生日」
なるほどー、と頷くと「他人事だと思ってんだろ」と言われてドキリとしたから慌てて首を横に振った。
あたしとミノルがこうなるにはポンちゃんのOKが必要だったなんて笑えちゃう。
それに3年かかったなんて、そんなミノルにも笑える。
「3年も待って、あたしと関わって待ったかいはあったの?」
笑いながら尋ねると「あったよ」と言った。
「あたしを可愛いとも思わないくせに胸はって言わないでよ」
「誰も可愛くないとは言ってないだろ」
「お前みたいなヤツどうのこうのって言ったじゃん」
「肝心なところ覚えてないくせに言うな」
「キスだって、それに意味なんてないんでしょ?」
「お前はどこまで俺を最低にすれば気が済むんだ」
睨んでたあたしは逆に睨まれて怯む。
怖いし、と目を逸らすと深く息を吐いた。
「最初は興味本位だったよ、本当に。ユウホが幼なじみってだけでこんなに守るんだから。さっきも言ったけど、ユウホがお前を隠したがる理由はわかった。バカだし隙だらけだし真っ直ぐで好きな人間には心を許しまくる。そりゃ俺が興味本位で近付いてウッカリ俺に本気になって傷付けでもしたら俺がユウホと絶縁だよ」
褒めてるのか貶してるのかわからないけど、ポンちゃんが守ってくれてたことは嬉しかった。
ニコニコし始めると「それだよ、それ」と言われて更にニヤける。
「そういうのを俺にもしてほしいわけ。ユウホが傍にいなくても俺が傍にいれば寂しくないように」
「ポンちゃん、離れちゃうの…?」
「それはユウホから聞け。ユウホの代理は絶対に嫌だけど、俺は離れずお前の傍にいる。だからユウホ離れして俺のとこに来い」
ミノルの言いたいことはわかった。
でもミノルの言葉の中の“離れる”の言葉が反芻して消えない。
玄関から「ただいまー」の声が聞こえて席を立った。
ユイ!とミノルが呼んだけど、止まらず玄関に向かい、靴を脱いだポンちゃんに抱き着いた。
「ただいまー。どうした?」
急に抱き着いたあたしの頭を撫でながら「ユイの好きなケーキ買ってきた」と嬉しそうに言う。
でもあたしは悲しいことばかり。
「ポンちゃんと離れるのやだぁぁぁ」
とうとう泣き出したあたしにポンちゃんは「喋ったの?」と後ろにいるらしいミノルに問い掛けた。
匂わせただけ、と答えるミノルに何も答えず、あたしをくっつけたままリビングに移動した。
ケーキを冷蔵庫に入れるようミノルに頼み、あたしは引っ付いたまま泣いた。
“ポンちゃんが離れる”ことに確信があった。
前にポンちゃんのお母さんとうちのお母さんがあたし達について話してたのを盗み聞きしてた。
“ユウホは地元を離れる”という言葉が強く残って不安だった。
もう大学も卒業するし自分の道は自分で決めなきゃいけない。
幼なじみだからっていつまでも一緒にいられるわけないってわかってる。なのに、こうして間接的に言われると寂しくて寂しくてどうしようもない。
「ユイ、ごめんな。今受けてる会社は全部ここから離れるところなんだ。ユイがこうして泣くのがわかってたからなかなか言い出せなくて」
あたしは泣きながら頷く。
「俺がミノルにユイを紹介したのはこの日のためって言ったら怒るだろ?」
「・・・」
「俺なりに考えたんだぞ?俺がいなくなったら甘える相手がいなくなるから必死に離れてみたりしたんだから。ユイのことを紹介してくれって奴は何人もいたけど唯一ミノルだけは諦めなかったし、まあ出だしは予想外だったけど、今はユイもミノルを好きだろ?」
ポンちゃんには至らない、と鼻声で言うと「当たり前だろ」と「比べんな」が同時に聞こえた。