COUNT UP【完】



「ユイ」

後ろから名前を呼ばれて、小さく視線を向ける。

「今の話聞いて、納得したなら俺のとこに来い」

納得なんてとうの昔にしてるよ!ていう気持ちでミノルを睨んで、またポンちゃんにきつく抱き着く。

ポンちゃんが頭を撫でてくれる。
それにミノルが「お前がそんなことするからユイが離れないんだろうが」と怒られて手が離れた。

とうとうしがみつくだけになったあたしはポンちゃんに抱き着いたまま息を吐いた。
見上げると眉を下げたポンちゃん。
この顔はあたしが我が儘言った時の顔。

涙を拭いてくれる。
後ろからは「今生の別れかよ」とか「バカップルか」とか言ってるけど、今まで双子みたいに過ごしてきたあたしにとっては今生の別れ並に辛い。

服から手を離し、距離をとる。
いつまでもポンちゃんにばっかり甘えてられないし、働き始めたら今みたいに会えなくなる。

ミノルに甘えるつもりはないけど、本当にポンちゃん離れをしなきゃいけない。
まだ内定も決まってない予定の状態でこんなに泣いていたらポンちゃんが引越しする時はどうなるんだろうと自分で自分が心配になる。

「泣き顔も昔のままだったな」

ポンちゃんがそんなこと言うから再度抱き着こうとしたのを「もうさせるか」とミノルに止められ、ミノルの腕の中に収まった。

「お前ら見てたらイライラする!ただの幼なじみごときでベタベタするな!ユウホも幼なじみの壁を越えるなって言っただろ?!」

ソファーに座らされ、ポンちゃんが買ってきてくれたケーキを準備してくれてる間、ミノルはずっと文句を言ってた。

「お前もユウホ離れしろよ!」
「ポンちゃんの代わりはいないもん。ポンちゃん大好きだもん」
「じゃあユウホ離れして俺を同じ気持ちで想えよ」
「それは無理」
「なんでだよ」

急にトーンが落ちたミノル。

「だってポンちゃんはポンちゃんだもん。ミノルはミノルでしょ?ポンちゃんとは別の感情で想うしかないもん」

ミノルは少し考えて、「なるほどな」と言った。

「お前らは友達でも男でも女でもなくて本当に“幼なじみ”なんだな」

だから言ってるじゃん、と言うと理解できるか!と怒られた。
怒られた、とポンちゃんを見ると笑ってる。
それでポンちゃんがあたしにミノルを紹介した理由がわかった。

今まであたし達の関係を理解してくれる人はほぼいなかった。
彼氏が出来てもポンちゃんの存在でフラれたことが9割くらい。
幼なじみだって言っても信じてくれなくて、“俺とユウホのどっちが好きなの?”と言って怒られる。

「イズミは怒らないのか?」
「イズミは、」
「いずみんはあたしも友達だもん。可愛いしポンちゃんと一緒に話聞いてくれるもん」
「ユイがこれだから俺に痛手はないの」

意外って顔で「へー」と言うミノル。
数回首を縦に振って思い出したように「彼氏って誰だよ」と聞いてきた。
その方が不思議だって顔して聞いてくるから失礼しちゃう。
あたしだって今までに彼氏の一人二人いるし!とポンちゃんに目で合図した。

「あー、最近ではタクマかな」
「タクマ?!」
「ミノルに紹介する前くらいまで付き合ってたかな?」
「他は?」
「スエさんとか」
「マジで?」

ありえねぇ、と頭を抱えるミノルを見てポンちゃんに首を傾げる。

ミノルはあたしに話しかけるまでの期間、彼氏はいないと思っていたらしい。
そう見えちゃうらしいんだけど、意外と彼氏の数は多い。
ただ期間が短いだけで。

「スエさんが一番長かったかな?」
「一年続いたね」

唖然とするミノル。
思い出に浸るあたし。
スーちゃんは5歳年上だったから色んな世界が見れて楽しかった。
スーちゃんだけが唯一まともに別れた人だと思う。

「数はあるけど期間が短いんだよ。ホレられるくせにフラれる。今までは俺がいたから慰めてやれたけど、もう傍にいてやれないから俺はお前に、」
「興味本位で近付くのはやめてくれ、だろ?」

でも大丈夫だから、と肩を抱いてくるミノルに身じろいだけど離してくれなかった。

ポンちゃんがそんな風にあたしの恋愛を見ていたなんて全然気が付かなかった。
あたしはいつだってマイナス思考でフラれてはポンちゃんと会って泣いてた。

たいてい押し切られて付き合い始めて好きになり始めたらフラれる。
そんな恋愛ばかりだった。

あたしが原因だってわかってたから何も言えなかったけど、ポンちゃんはいつも“アイツが悪い”ってあたしを慰めてくれた。
でもポンちゃんが近くにいなくなったらそれもなくなってしまう。
あたしの唯一の安心出来る場所だったのに。

しょぼくれるあたしの顔を持ち上げるように上げてミノル自身へ向けられる。

「さっきも言ったけど、俺はお前の傍を離れたりしないし、他の男みたいに傷付けたりしない。他の奴と俺は違う。お前ら幼なじみの関係は今ちゃんと理解したし、春にはユウホはいない。お前がユウホ離れして俺に惚れたら一石二鳥。今まで通り、お前と俺は一緒にいられる」

ニコニコ笑うミノルの言い分になんて自己中なんだろうと強く思う。
あたしを好きだと言わないくせに一緒にいることばっかり言う。

それがミノルの気持ちで告白なのかわからないけど、今はポンちゃんが傍にいるし、内定が決まって春にここを離れるまでポンちゃん離れする気は毛頭ない。
返事をせずに無視したらミノルが何か言ってたけど、それも聞き流した。

本当に何を話してたか覚えてない。
でもポンちゃんとミノルと3人でいる時間はすごく楽しくて、夜はあたしの家で夕飯を食べて帰っていった。
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