COUNT UP【完】


あれから数ヶ月。
ポンちゃんの内定が決まって、報告を受けた時にまた泣きわめいたあたしを慰めたのはミノルだった。

大学を卒業したにも関わらず、暇になればミノルが朝ご飯を食べに来る。
ママはミノルをあたしの彼氏だと思っているらしい。
それも嫌な気はしなくて何も言わなかった。

あたしの気持ちは前と変わらず“ミノルはミノル”ってだけで、彼氏のような感情ではなく、どっちかっていうとポンちゃんへの気持ちとの方が近くて不思議な感じ。

好きでもないし嫌いでもない。
どちらかと言えば好きだけど、恋愛感情ではない。
でも離れるときっと寂しいって強く思う。

「荷物まとめる手伝い禁止されたんだって?」
「そう。また泣きわめくだろうからって」

あーね、とあの日のことを思い出したに違いない。

「買うのってオーブンレンジでよかった?」
「うん。無いって言ってたし」

今日はミノルと一緒にポンちゃんへの就職祝い兼引越し祝いを買いに来た。
朝から迎えに来てくれて、夜のポンちゃんの出発までに渡す予定。

今日はとうとうポンちゃんが地元を離れる日。
来るな、来るなと願ってもどうにかなるわけなく、とうとうこの日がやって来てしまった。

この日までご飯食べに行ったり、いずみん含め4人で旅行に行ったりして最後の最後までポンちゃんとの思い出作りに専念した。

ミノルが途中でイライラしてた時もあったけど、なんとか今日まで来た。
小さい頃とは違う遊びで大人になったあたし達の新しい思い出が作れて楽しかった。

「これでお前もユウホ離れだな」

嬉しそうに言うミノルの顔を見てると段々とあたしへの気持ちを信用してみようかなって気になっていて、だからって具体的な何かがあるわけじゃないけど、ポンちゃんの引越しが近付くにつれ“ポンちゃんと離れても寂しくないかも”と思うようになってきた。

それは絶対、ほぼ毎日のように暇になれば連絡してくるミノルのせいだし、おかげだと思う。
ポンちゃんがあたしのことを思ってミノルを紹介してくれたことを素直に受け入れるなら、まんまとミノルの策略にハマったと思わないで済む。

「生まれた時から一緒にいるのにそう簡単にポンちゃん離れ出来ないよ」

そう言ってもニコニコしてるあたり、ポンちゃんが引っ越しちゃうのが嬉しいのかもしれない。
薄情な奴め、と思ってもなんだかんだ心配してた様子を見てたら寂しいんだと思う。

「本当は寂しいくせに」
「あ?俺が?」
「ポンちゃんいなくなったら寂しいんでしょ?」
「お前みたいに泣くほどではないけどな」
「やっぱ寂しいんじゃーん」
「うるせぇよ」
「否定しないんじゃーん」

ぎゃあぎゃあ言いながらうちに帰ると家の前にトラック。
通常のより小さいけど、それが隣にあるポンちゃんちのだってわかるし、近付かなくてもそれが引っ越しのトラックだってわかる。

「早まったか?」

足取りが遅くなるあたしの手を引いて家に向かう。
ポンちゃんの家の前ではスタッフの人が綺麗に包装した家具をトラックに積んでいた。
前もって聞いていた話では夜に出発するって言ってたから夜ご飯は一緒に食べれるねって言ってたのにこんな早くになるなんて、気持ちが整理出来ていないのに。

「あ、おかえり。なんだ、買い物?」

人の気も知らないでニコニコと話しかけてくるポンちゃん。
引っ越しのスタッフの人に何かを聞かれると答えてはあたし達の方を見た。

「あ、これ?早まっちゃったんだ。あと15分くらいで出発なんだ」

眉を下げてあたしを見つめるポンちゃん。
そんなことしたってあたしのびっくりは治まるわけないし、あと15分でさよならなんて絶対に嫌だ。

……なんて、今までのあたしなら絶対そう言ってた。
でも、ここ数カ月であたしの気持ちも変わってきていて、ポンちゃんの夢のためなら応援しなくちゃって気になってきた。

今までずっと一緒だったから寂しいのは寂しい。
家族と離れるのと同じくらい寂しいけど、ミノルが言ってたみたいに今生の別れじゃないし絶対帰ってくる。

いずみんだってここに残るって言ってたし寂しいに決まってる。
いずみんだって我慢するんだからあたしだって我慢しなきゃいけない。

「おー、我慢してるしてる」

隣からミノルが覗き込んできて笑う。
でも口を開いちゃ我が儘言いそうだからミノルからオーブンレンジを奪ってポンちゃんに渡した。

「くれるの?え、それを買いに行ってくれたの?」

超嬉しいわ、と喜んでくれたからあたしも嬉しい。
ポンちゃんが意外と料理をすることをあたしは知ってる。
だから絶対オーブンレンジは必要だって言った。
ポンちゃんが欲しがってた新しいヤツ。

「もう行かなきゃいけないけどミノルとまた遊びにきて。連絡するからな」

頭を撫でられて堪えるようにポンちゃんに抱きついた。
この前みたいにポンちゃんがここを離れるって聞いた時みたいに号泣したりしないけど、寂しい。

やっぱり寂しい。
すごく、すごく、寂しい。

「すみません、そろそろ出発します」

スタッフの人の声が聞こえて、ポンちゃんが行かなきゃいけないのはわかってるけど腕を離せなくてしがみついてた。

どうしても離れられなくて、でもポンちゃんも何も言わなくて、どうしようもなくなったとき、後ろからあたしの肩を引いたのがミノルだった。

「また会いに連れてってやるから離れろ。ユウホもいつまで放ったらかしにしてんだよ。はよ行け、はよ」

あたしの空いた手にミノルが触れて、引き寄せられる。
ポンちゃんはミノルを見て苦笑して、そしてあたしの頭を撫でて手を振った。

ポンちゃんのママもうちのママも外に出てきていたからポンちゃんは一言なにかを言ってトラックに乗り込んだ。
それをあたしはずっと見ていた。

ミノルに抱きしめられたまま、ポンちゃんが乗ったトラックが見えなくなるまでミノルの腕の中で見てた。
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