COUNT UP【完】
とあるバー。
あたしは適度なお洒落をして店の扉を開ける。
「ちゃんと来たか」
「来いって言ったのはポンちゃんじゃん」
ドアを開けると立っていたのはボーイの格好をした幼なじみ。
あたしだけが呼ぶあだ名はさすがに21歳にもなると恥ずかしいらしくて「ポンちゃんて言うな」と小さく言った。
ポンちゃんはうちのお母さんの友達の子供で、よくある“同じ歳の子供が欲しいね”というヤツを実行して、まんまと同じ時期に産まれてしまったあたし達。
産まれる前から逃れられない“幼なじみ”という仲だ。
ポンちゃんは薄暗い店内を見渡して、「お、いたいた!」と店の奥に向かって手招きしてた。
知り合いがポンちゃん以外に一人もいないこの状況が辛くて早くも帰りたい病が始まってる。
「ユイ、紹介するわ。俺のツレで今日の主役のミノル」
奥から現れたのはグレーのダブルのスーツに身を包んだ綺麗な男。
外見を一言で言えば“スマート”で、第一印象を一言で言えば、“関わりたくない”だ。
ペこりと頭を下げて、目が合わないように体の角度を少し変える。
「前に連れてくるって言ってた幼なじみのユイ。コイツ男嫌いでさ」
ポンちゃんの友達のミノルという人はあたしを頭の先から爪先までを眺めて「ふ~ん」と興味なさそうな返事をした。
興味がないから早くあっちへ行って!そう思ってるのにミノルという人はなかなかこの場から動こうとしない。
会話もしないし、何がどうなってんのか、彼を見たくないために視線を逸らしてるあたしにはわからない。
「ユイ」
「な、なにっ」
急に名前を呼ばれて反射的にミノルという人に視線を向けると、なぜか至近距離に顔。
なに?!と思った時には既に終わってた。
「!?」
「チューしちゃったね」
“チュー”の言葉に思わず両手で口を押さえると「遅いから」と笑われた。
ポンちゃんはミノルというキス魔の隣で苦笑してるだけ。
見てたなら止めてよ!と言いたいけど、ここは店内。
キッとポンちゃんを睨むとキス魔が「やめなって」と馴れ馴れしくあたしの肩に手を置いてきた。
「だから嫌だったのよ…っ」
その手を払って、キス魔を睨む。
キス魔は効いちゃいねぇよ、と言うように両手を挙げて肩を竦めた。
その仕草にもイライラする。
「ポンちゃんのバカ!男なんて大っ嫌い」
後ろのドアを勢いよく開けて走って逃げる。
背後からは「ユイ、待てよ!」とポンちゃんの声が聞こえたけど、一切止まらず家に向かって、ひたすら走った。
今日のことは忘れるんだ!
絶対忘れるんだ!
涙を堪えて一生懸命家までの道のりを走った。