COUNT UP【完】
本当に送ってもらってしまった。
怖かったバイクも慣れてしまえば気持ち良かった。
借りたヘルメットを返して、ぺったんこになった髪を適当に整える。
キス魔も髪をくしゃくしゃと触って、ヘルメットを直したり、バッグを出したり、準備を始める。
送ってもらったんだから人間として言わなきゃいけないことがある。
一言言えばいいのはわかってるんだけど、なんだか恥ずかしい。
無意味に恥ずかしくなってる自分自身が意味わかんなくて、頭がおかしくなりそうだ。
さっきのドキドキがまた再発しそうで俯く。
礼を言うだけでいいのよ!と気合いを入れて「ねぇ」と声を掛けた。
「………」
目の前にいるんだから聞こえてないわけないのに無視。
「ねぇ」
「………」
完全に無視されてる。
さっきと同じく名前を呼ばないと反応しないつもりなんだろうか。
もう名前を呼ぶのは嫌だから、
「送ってくれてありがとう」
と言って立ち去ろうとしたら、腕を引かれて止められた。
「さっきは名前呼んでくれたのに今は呼んでくれないんだ?」
可愛い子ぶって首を傾げたキス魔にまた心臓が跳ねる。
そんな顔全然可愛くない!!と冷静さを取り戻す為に目をつぶると「ユイ」と名前を呼ばれた。
目を開けると、視界いっぱいにはキス魔の顔。
綺麗な瞳から目が離せない――と思ってたら「学習能力ねぇな」とキスをされた。
「~~っ、何すんの!!」
「送ってあげた礼だな」
「お礼なら言ったじゃん!!」
「言葉だけじゃ足りないね」
意地悪く笑う顔にまたドキリとする。
どうしたの!?一体この数十分で何があったの?!と自分自身に問うけど、何もわからない。
「行くぞ」
再びぷちパニックを起こしたあたしと自然に手を繋いで歩くキス魔に、それを拒否しないあたし自身に混乱する。
だけど、あたしの手を引いて歩くこの男に完全に翻弄されてるってことはわかった。
END.