COUNT UP【完】
逆らえない恋心
「おい、全然食ってないぞ。口動かせ」
・・・朝7時、目覚めの悪さMAX。
テーブルに向かってママが準備してくれてる朝食を口に入れるんだけど、なかなか思うように動いてくれない。
ママの作った朝食が美味しくないわけじゃない。
むしろ毎日あたしの好きな食べ物ばかりを作ってくれて世界一美味しいんだけど、それを気持ちよく食べさせてくれない人が隣にいるから気分が優れなくて口の動きが鈍ってるだけ。
「早く食わないと遅刻するけど」
「だったら放っておいて!!」
あたしは何かと親みたいな小言を言う隣の男を睨んだ。
「こら、ユイ!毎日迎えに来てくれてるミノルくんにそんなこと言わないの!!」
キッチンでお皿を片付けてるママがわざわざ振り向いてあたしを注意する。
「ごめんね、ミノルくん」と申し訳なさそうにママが謝ると「いえ、大丈夫です」と気持ち悪い笑顔で返した。
「…猫かぶりめ」
「なんだって?」
あたしの苛立ちの呟きにミノルは小声で凄む。
顔が綺麗なだけに怖くて目を逸らすと「ちゃっちゃと食え」と口を開けさせられてパンをねじ込まれた。
「はにふんの!」
「口にモノ入れたまま喋るな。ほら、ジュースで流して着替えて来い」
今日のパンだったロールパンの半分を口の中でちょっとずつ飲み込みながら詰まりそうになるたびミノルがジュースを手渡してくれて、食べ終えると椅子を引かれて着替えるよう二階の部屋まで引っ張られる。
「もたもたすんな。遅れるだろ」
「じゃあ先に行けばいいじゃん」
「着替えを手伝ってほしいみたいだな?」
あたしがドアを後ろ手で閉めようとしたのを止めて中に入ってこようとするから「なに考えてんのよ!」とお腹を殴って締め出した。
かといってドアに鍵なんて付いてないし、いつ入ってくれるかわからない!と数秒警戒していると「早く着替えろよ」と階段を降りる足音が聞こえた。
ホッとしてようやくクローゼットを開けて支度を始めた。
あれから―――ポンちゃんがあたしにミノルを紹介してキスをされたあの日からあたしの朝は180度変わった。
毎朝起こしにきてくれていたポンちゃんはご両親が朝早いからと昔と同じように朝食をうちに食べにきてはいるものの、あたしを起こしにきてくれなくなり、その代わりにミノルが起こしにくるようになった。
あたしがリビングに下りたときにはポンちゃんの朝食はすでに半分なくなっていて、あたしが顔を洗い終わって席に座ったときにはもう家を出ている。
ミノルがあたしを起こしにくるようになって気付いたのはポンちゃんの朝がどんなに忙しかったかってこと。
あたしとポンちゃんの大学は一緒だけど学部が違う。
もちろん学ぶことも違うし、時間も違う。
それをポンちゃんと入れ違うようになって初めて知った。
毎朝忙しいのにこんなあたしに合わせていてくれたんだと初めて知って、申し訳ないことをしてしまった。
それに気付かなかった自分が相当甘えていたんだと思い知った。