東京恋愛専科~または恋は言ってみりゃボディブロー~
「じゃあ、“樫尾さん”でいいですか?」

そう聞いた彼女だけど、
「それだと他人な感じが…」

俺の不満は消えなかった。

納得ができないと言う顔をしている彼女に向かって、俺はある提案をした。

「俺は桜井さんのことを“つづりさん”と呼びます」

我ながらいい塩梅だ。

名前で呼ぶことを提案した俺に、彼女は戸惑っている。

「だから、つづりさんも名前で呼んでください」

そう言った俺に、彼女は驚いたと言うように切れ長の目を大きく見開いていた。

ムチャクチャだと言いたそうな顔をして俺を見つめている。

なかなか俺の名前を呼ぼうとしない彼女に、
「つづりさん」

俺は彼女の名前を呼んだ。

名前を呼ばれた彼女は見開いていた目を戻すと、気を落ち着かせるように深呼吸をした。

紅いその唇を開くと、
「――光明さん」

ようやくつづりさんは、俺の名前を呼んでくれた。
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