東京恋愛専科~または恋は言ってみりゃボディブロー~
「――細貝さん…」

呟くように名前を呼んだ私に、彼は眼鏡越しの目を細めて微笑んだ。

微笑みも、あの頃と変わっていなかった。

細貝孝文(ホソガイタカフミ)――私が大学時代につきあっていて、わずか1年で自然消滅と言う形で別れてしまった元彼だった。

「まさか、こんなところで会えるとは思ってもみなかったよ」

そう言った細貝さんに、
「私も驚きました」

私は返事をした。

その瞬間、沈黙が流れた。

「いつ頃から神戸にきていたんですか?」

それを破るように、私は質問をした。

「おととしの秋にここへきたから、もう2年くらいになるね」

細貝さんは私の質問に答えた。

「一緒にいた男の人なんだけど…あれは、桜井さんの彼氏なの?」

ああ、やっぱりきたか。

何となく、彼がその質問をするだろうと言うことは察していた。
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