東京恋愛専科~または恋は言ってみりゃボディブロー~
楽しかったイルカショーはあっと言う間に終わった。

「ひぇーっ、ビショビショだ」

髪の毛の先からポタポタと垂れる雫をぬぐいながら、副社長は言った。

「だから前が空いていた訳だったんですね。

ちょっと待っててくださいね」

私はカゴバックの中からハンカチ――幸いにも中身は無事だった――を取り出すと、びしょ濡れになっている副社長の顔を拭いた。

「ああ、ありがとうございます…」

副社長がお礼を言ったので、
「いいえ」

返事をしたその瞬間、ハッと我に返った。

――私は一体何をしているんだ…?

副社長と私の距離がとても近くにあることに気づいてしまった。

しかも顔を拭くためとは言え、自分から副社長に手を伸ばして彼の顔をさわっている。
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