きみは宇宙でいちばんかわいい
「じゃあ、俺のことも、名前で呼べばいいのに」
「えっ?」
「は? エッ、て? もしかして知らねーのかよ、俺の名前」
「いやそれはもちろん、もちろん知ってるよ、でも」
「なら、呼べるじゃん。簡単だろ」
たしかに、呼べる。
きっと簡単だろう。
ただ、久遠くんのなかで、なにがどうなって、いきなりそんな話に終着したのか、あまりにもわからないから、困惑せざるをえないのであって。
「ほら、なな子」
けれど、彼にとって、こちらのそんな事情などは、いつでも関係ないことなのだ。
いつも、ふいうちで、困る。
どうして、ごくたまに、忘れた頃に、名前で呼んでくるのだろう。
遠足の帰り道での一件だって、思い返せば思い返すほど、絶対に、聞き間違いなんかじゃなかった。
「えと……、いろは、くん」
「声ちっさ」
「……彩芭、くん」
「ん、もう一回」
「彩芭くん」
名前で呼ぶのなんて、きっと簡単だろう、と。
数秒前までは、たしかにそう思っていた。
でも、ぜんぜん、そんなことない。
ぜんぜん、むずかしい。
だって、なぜか、ものすごく恥ずかしい。
「……ふ。きなこちゃん、真っ赤になってんじゃん」
「だっ……て、これは、どうしても、慣れないから」
「なんで? 織部のことは、普通に名前で呼んでるだろ」
そんなこと、言われても。
柊くんは、物心ついたときから名前で呼んでいるので、いまとは状況がまるっきり違っているのだ。