きみは宇宙でいちばんかわいい


なにはともあれ、久遠くん、もとい、彩芭くんは、さっきよりもほんの少し機嫌がよくなったようだった。

わたしを好き勝手からかって、思惑通りおもしろい反応を見られたことによって、多少は楽しい気持ちになってくれたのかもしれない。


だけど、からかわれているのだとしても、どうしても、ひとつだけ、真剣に伝えておきたいことがあった。


「……あの、彩芭くん。ひとつお願いがあるのだけど、柊くんには、絶対に、言わないでほしいの」

「え? なにを?」

「だから、その……わたしが柊くんのことを、好きみたい、とか」


あえて自分で蒸し返す必要はなかったかもしれない。

でも、なにかの拍子で悪気なくポロッとこぼされるほうが、ずっと怖いと思ったから、これは苦渋の決断だった。


「……ああ。まあ、べつに言うつもりとか、ないけど」


再びつまらなさそうに笑顔を消した彩芭くんが、上体を後ろに倒し、椅子の背もたれに体をあずけるような体勢になる。

そして、薄茶色の瞳だけをチョイっと上げると、うかがうようにわたしを見た。


「なに、きなこちゃん。気持ち、伝えるつもりねーの?」

「……うん。いまのところ、予定はない、かな」

「なんで? さっさと言わねーと、あいつって死んでも気づかなさそうだし、なにひとつ進展ないと思うけど?」


そんなこと、わたしがいちばんよくわかっている。

でも、それをわかった上で、そうせざるをえない明確な理由があるから、しょうがないのだ。

< 101 / 285 >

この作品をシェア

pagetop