きみは宇宙でいちばんかわいい
なにはともあれ、久遠くん、もとい、彩芭くんは、さっきよりもほんの少し機嫌がよくなったようだった。
わたしを好き勝手からかって、思惑通りおもしろい反応を見られたことによって、多少は楽しい気持ちになってくれたのかもしれない。
だけど、からかわれているのだとしても、どうしても、ひとつだけ、真剣に伝えておきたいことがあった。
「……あの、彩芭くん。ひとつお願いがあるのだけど、柊くんには、絶対に、言わないでほしいの」
「え? なにを?」
「だから、その……わたしが柊くんのことを、好きみたい、とか」
あえて自分で蒸し返す必要はなかったかもしれない。
でも、なにかの拍子で悪気なくポロッとこぼされるほうが、ずっと怖いと思ったから、これは苦渋の決断だった。
「……ああ。まあ、べつに言うつもりとか、ないけど」
再びつまらなさそうに笑顔を消した彩芭くんが、上体を後ろに倒し、椅子の背もたれに体をあずけるような体勢になる。
そして、薄茶色の瞳だけをチョイっと上げると、うかがうようにわたしを見た。
「なに、きなこちゃん。気持ち、伝えるつもりねーの?」
「……うん。いまのところ、予定はない、かな」
「なんで? さっさと言わねーと、あいつって死んでも気づかなさそうだし、なにひとつ進展ないと思うけど?」
そんなこと、わたしがいちばんよくわかっている。
でも、それをわかった上で、そうせざるをえない明確な理由があるから、しょうがないのだ。