きみは宇宙でいちばんかわいい


それから、もう少しだけ勉強会をして、陽が落ちる前にカフェを出た。

何度も遠慮したのに、約束したからと譲ってくれなかった彩芭くんは、本当にわたしを家まで送り届けてくれたのだった。

ぜったい遠まわりになっているに違いないのに、申し訳ない。


「ここが、きなこちゃんち?」

「うん、ここ。表札に“木原”って書いてあるでしょう?」


何の変哲もない住宅街に建つ、何の変哲もない一軒家。

それでも、クリーム色の外壁をしげしげ見上げながら、彩芭くんはものめずらしそうに、「へえ」と目を輝かせている。


「あの、送ってくれて、本当にありがとう。あしたからテストはじまるのに、遠まわりさせちゃって、ごめんね」

「いーよ、もともと俺が呼び出したんだし。それに、織部の言った通り、けっこう暗いから、女の子ひとりで帰すとか普通に心配じゃん」


さすが、紳士の国で生まれ育っただけのことはある。

そういうせりふがさらっと口から飛び出すことに感心していると、彩芭くんが唐突に「あ」と声を出した。

その視線は、なにやら、わたしの後方へ向いているようだ。


「きなこちゃん。虹」

「えっ?」

「うしろ、ふり向いてみてよ。すげーでっかい虹がかかってるから」


言われるがまま、回れ右をする。

そのとたん、驚きのあまり、絶句してしまった。


もはや夜の手前くらいな、微妙なニュアンスの夕方の空に、見たこともないほど大きな、七色のアーチがかかっていた。

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