きみは宇宙でいちばんかわいい
「し、信じらんない。なんで、勝手にドア、開けてるの」
「しっかりノックしたけど? 壁越しでも聞こえるくらい、お経みたいにブツブツひとりごと唱えてたせいだろ。おかげでお兄ちゃん、休みなのに、こんな朝っぱらから起こされましたわ」
最後の文句にわたしが謝る隙も与えず、彼は大あくびをかましながら、気だるげな足取りでベッドのほうへ向かっていった。
そして、積み重なった洋服の山を撫でると、ニヤッと笑ったのだった。
「なに、おまえ。そんなにめかしこんで、柊とデートでも行くのかよ?」
いつも、隙あらば、柊くんのことでからかってくる。
もはや言わずもがなという感じで、ちゃんと言葉にして指摘されたことはないけれど、もちろん、お兄ちゃんはわたしの気持ちを知っているはずだ。
意外にも、柊くん本人にはそのことをバラしていないみたいで、それに関しては少しくらい感謝しているけど、日々の意地悪と天秤にかけたら、そんなものは相殺にもならない。
いつのまにかお兄ちゃんの手に収まっているブラウスを奪い取りながら、口をとがらせ、顔を背けた。
「ちがいますー」
「嘘つくなよ」
「嘘じゃないし。柊くんと、じゃないもんね」
「あ、そう。じゃあ、誰と?」
「え?」
「柊じゃないなら、相手は誰だって聞いてんの。いまの言い方、“デート”ではある、ってことだろ」