きみは宇宙でいちばんかわいい
とても美しい顔が、少し傾きながら、近づいてきて。
いつのまにか、ぼやけてしまうほどの距離にまで、なっていた。
「――……え、?」
いったいなにが起こったのかわからずに、ただ茫然とするしかないわたしから、彩芭くんがゆっくりと離れていく。
「え……いま、の、って」
とても、口に出して言うことなんて、できない。
だって、いま、自分の身に起きた一連の動作が、はたして現実の出来事だったのかどうかさえ、見当もつかない。
「……きなこちゃん。じゃあ、またね」
「あ……」
「俺も楽しかったよ」
強いコントラストで逆光になっているせいで、彩芭くんがどんな表情を浮かべていたのか、最後まで、ほとんど見えなかった。
ただ、去っていく背中が消えてしまってもなお、わたしはずっと、その場から動くことができなかった。
チェリーピンクに色づいたところに、指先で触れたまま、外すことすらできない。
感触も、温度も、すべてが残っている。
一瞬だったけど、さっき、たしかに、彩芭くんのくちびるが、わたしのくちびるに、触れていたと思う。