きみは宇宙でいちばんかわいい
「――きなこちゃん!」
下駄箱で柊くんと別れようとしていたとき、いきなり後方から呼びかけられた。
彩芭くんは、遂に、わたしを“木原さん”と矯正して呼ぶことを諦めたのか、いまでは、誰とどこにいようが、普通に“きなこちゃん”と呼んでくる。
それにしても、彼の声を聴いた瞬間ばくばくと暴れはじめた心臓を、どうすれば抑えこむことができるのだろう。
一回目のときよりも明確に重なったくちびるは、ひと晩たったいまでも、その瞬間の温度や、感触を、はっきりと覚えているというのに。
それでも、このままずっと無視しているわけにもいかないので、とうとう意を決してふり返った。
そして、ぎょっとした。
彩芭くんは、もうすでに、ミスコン用の女の子の姿をしていたのだ。
「きなこちゃん、おはよ」
軽快にそう言った彩芭くんは、きのうのことなんてまるで無かったかのように、ケロリと笑っている。
「へあ……」
なんだか、拍子抜け。
あんなにうるさかった鼓動が鎮まってゆくのと反比例して、力ない笑いがこみ上がってくるような、なんともおかしな感覚が、体の真ん中で膨れあがってゆく。