きみは宇宙でいちばんかわいい
そこで、突如として、スピーカーから爆音が流れはじめた。
なんとなく聞き覚えのあるポップ・ミュージックに合わせて、彩芭くんのくちびるが紡ぎはじめたのは、全編英語の歌詞。
「……こんなん、かっこよすぎて、反則だろ」
柊くんが、息を吐いて笑いながら、呟くように言った。
「わたし、この曲、大好き」
反対側で、朝香ちゃんが、ひとりごとみたいな感嘆の声を漏らした。
そこで、早くも最初のサビがやってきて、高波のような歓声が上がる。
やがて、大サビを迎える頃になると、体育館じゅう、見事なスタンディングオベーションとなっていた。
わたしだけがずっと、そのすべてから、置いてけぼりのままでいる。
ただ、全身に鳥肌が立ち、わけのわからない涙が流れ落ちていた。
いま、この瞬間、この空間のすべては、疑いようもなく、久遠彩芭くんのものだ。
誰よりかわいい女の子の姿で、かっこいい男の子の声を使いながら、完璧な日本語でスピーチをしたあと、ネイティブの英語で歌う。
誰かが決めた人種や、性別など、とっくに超越している。
やっぱり彩芭くんは、この世界を変えていく存在なのだと、わたしは何度だって思うよ。
それでいて、彼は、そんな世界を構築している、何の変哲もない、ひとりの愛しい人間なのだということを、これからは、同じくらい、何度だって思い直していくのだろう。