きみは宇宙でいちばんかわいい
自分の出番の記憶なんて、ほとんど残っていない。
気を失いそうなほどのプレッシャーと緊張のなか、ちゃんとステージに立てたこと、そこで10分間を過ごせたことだけでも、わたしにとってはこの上ない奇跡で、ものすごい快挙なのだから、しょうがない。
朝香ちゃんのように華麗なクラシック・バレエもできないし、彩芭くんのように堂々とスピーチをする度胸もないわたしが、ほぼ満席の会場で披露したのは、“お手玉”。
だって、できることと言われたら、それくらいしか思い浮かばなかったのだ。
小さい頃、おばあちゃんから教えてもらった、わらべうたの遊び。
それは、ぶきっちょなわたしが、お兄ちゃんより上手にできた、唯一のことだった。
たぶん、客席のほうは、ぜんぜん盛り上がっていなかったと思う。
そんなことを気にするほどの余裕もなかったけど、べつだん緩急もないし、地味すぎる10分間が大トリで、申し訳ないやら、恥ずかしいやらで、居たたまれなかったのは確かだ。
それでも、舞台から捌ける前、いろんな気持ちをこめて深々とお辞儀をしたとき、信じられないほど大きな拍手を貰ってしまったことだけは、ちゃんと覚えている。
すごく嬉しかったし、心からほっとした。
そのあと、舞台袖で、少しだけ泣いてしまった。