きみは宇宙でいちばんかわいい
普段怒らない人のほうが、いざ怒ると、ずっと恐ろしいというのは、真実だったのだな。
柊くんの言葉は、シンプルで、とても容赦なく、それでいて、あまりに真っ当すぎたから、言われた相手はなにも言い返せず、すぐにしっぽを巻いて逃げてしまった。
「……なんだよ、あれ。しょうもな」
ひとりごとのように呟いた柊くんが、まだ残っている苛立ちを体外へ放出するみたいに、短いため息をつく。
本当に、どこまでもしょうもないし、とてつもなく最低だった。
わたしも、追いかけてでも言ってやりたいことが、たくさんある。
平手打ちの一回くらいなら、たぶん、お見舞いしてもよかった気がする。
一連の出来事への嫌悪感と、なにもできなかったことの悔しさに、ひとりで憤怒していたら、左手首に感じていた感触が、ふと、前触れもなく外れた。
左側は――そう、彩芭くんだ。
「彩芭くん……?」
そこで、わたしはやっと、はじめて不思議に思ったのだった。
あの久遠彩芭くんが、ずっと黙りこんでいるなんて、どうしたのだろう?
自信満々な彼のことだから、いつものように不敵に笑い、なんとも強気なせりふを言い放っていても、おかしくないはずなのに……。
「……っ、ごめん」
視線を向けた先で、見たこともないふうに顔を歪めていた彼は、それだけをこぼすと、すぐにわたしたちに背中を向け、どこかへ走り去ってしまった。