きみは宇宙でいちばんかわいい
足の速い彩芭くんに、そうじゃないわたしが追いつくなんて、ほぼ不可能だ。
だけど、なんとなく、ここかもしれないと思って最初に訪れた場所に、彼の姿はあった。
旧校舎へと続く、渡り廊下の前。
きょうは文化祭だというのに、相変わらず、この場所だけがまるで別世界みたいに、閑散としている。
わたしたちがいつも一緒にお昼ごはんを食べている段差のところに、彩芭くんはうずくまり、とても小さくなって、座っていた。
ぎゅっと膝を抱え、顔を埋めている姿は、さっきまでミスコンのステージに立っていた美少女と、とても同一人物だとは思えない。
「……彩芭くん」
たまらない気持ちになって、何の言葉も用意できていないうちに、名前を呼びかけてしまう。
彩芭くんは、かすかに肩を動かしたけれど、いっこうに顔を上げる気配はなさそうだった。
「あの……追いかけてきちゃって、ごめんなさい」
言いながら、普段のランチタイムと同じように、隣に腰かける。
彼はそれでも顔を上げようとせず、膝に擦りつけるみたいにして、ちいさくかぶりを振っただけだ。
なにを、どう言ったらいいのか、わからない。
気のきいたせりふなんて、ひとつも持ち合わせていない。
そうしているうちに、静かな時間だけが着実に編みこまれていき、やがて大きな沈黙になると、わたしたちをまるごと包みこんでしまった。
薄暗く、ひっそりとした空間で、ただわたしの非力さだけが、情けないほどに浮き彫りになっている気がした。