きみは宇宙でいちばんかわいい


ふと、柔らかくて硬いなにかに、頬をなぞられる。

彼の指先に導かれるようにして、再び、そっと、視線を上げる。


「なな子」


目の前にある美しい顔が、わたしの名前を呼んだ瞬間、ぐにゃりと歪んだ。


「ごめん。グラウンドの明かりが消える前に、本当はいますぐにでも、あいつの元に帰すべきだって、わかってる。それでも、俺を追いかけてきてくれたのが、すげー嬉しくて、たまんなくて、どうしたらいい?」


きっと、彩芭くんも、泣きそうだった。

たぶん、もうほとんど、泣いていた。


「ずっと、きなこちゃんの優しさに付け入るようなことしてきて、ごめん。それでも、全部、嬉しかったんだ。受け入れてもらえてるような気がしてた。もう、どうしようもないくらい、好きになってた」


こつん、と、額どうしがぶつかる。


「――でも、これで、最後にする」


くちびるを寄せたのは、たしかに、彩芭くんの意思だったかもしれない。

でも、それを拒まなかったのは、まぎれもなくわたしの意思だ。


柊くんと朝香ちゃんの顔が、いっぺんに脳裏に浮かんできたのは、そのあとのこと。

すべてに混乱しきり、ただ泣くしかないわたしに、彩芭くんは幾度かのキスを重ねながら、同じだけの「ごめん」と「ありがとう」をくり返した。


そして、グラウンドの喧騒が落ち着きだした頃、彼はわたしに、もう、友達には戻れないと、静かに告げたのだった。




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