きみは宇宙でいちばんかわいい
やがて彼女が足を止めたのは、宿泊しているホテルの真裏に位置する、小高い丘だった。
おすすめの場所を訊ねた朝香ちゃんに、フロントのお姉さんが、絶景を見ることのできる穴場があるのだと、こっそり教えてくれたらしい。
たしかにそう言うだけあって、その場所は、人っ子ひとりおらず、がらんとしていた。
「わぁ……ほんとに、綺麗だね」
「すごい、こんなの、はじめて見た……」
果てしなく続く夜空と、満天の星たちと、朝香ちゃんと、わたし。
いま、世界に存在しているのは、たったこれだけなのではないかと、おかしな錯覚にさえ陥ってしまう。
「……ななちゃんに、まだ話してないことが、あったよね」
そんな、ふたりきりの世界の真ん中で、朝香ちゃんはいきなり切り出した。
思わず右側に目線を向けると、星空を見上げていた彼女も、同じようにわたしのほうへ視線を移した。
「わたしね、文化祭の日、あれから久遠くんに、ちゃんと告白できたよ。それで、見事にふられちゃった。報告が遅くなって、ごめんね」
彼女が紡ぎだす言葉が、白い水蒸気となって、宇宙の彼方へ吸いこまれていく。
目を見張り、それをひとつずつ見送っていると、薄い白色のむこう側で、朝香ちゃんは目を伏せ、ちいさく微笑んだのだった。