きみは宇宙でいちばんかわいい
「でもね、はじめからわかってたの、ふられることは。久遠くんには、他に好きな女の子がいるって、知ってたから」
痛いほどの寒さに耐えている体の中心で、びくりと心臓が大きく跳ねる。
そして、ばくばくと暴れはじめる。
なんとなく、生きた心地がしなかった。
たとえば、逃げつづけていた凶悪犯が捕まる瞬間というのは、こんな感覚だろうかと思った。
「久遠くんが、ななちゃんにふられちゃったっていう、あの噂話。みんな、ただの冗談だと思ってるみたいだけど……本当でしょう?」
ゆっくりとこちらを向いた、ふたつの瞳と目が合った瞬間、はっとした。
そして思考停止したまま、首がちぎれてしまうのではないかというくらいの勢いで、必死にかぶりを振った。
「あの、ちがう、よ。たしかに、そんな感じのことを、言われたかもしれないけど、ふったとか、ふられたとか、そういうんじゃないよ」
「……じゃあ、どういうの?」
「それ、は」
くちびるがかじかんでいる。
だから、うまくしゃべることができないというふりをしたけど、本当は、一言目を探すのにいっぱいいっぱいだっただけだ。
「それは……彩芭くんの、勘違いじゃないかなぁって」