きみは宇宙でいちばんかわいい
「俺は、ちゃんと全部を欲しがってきたからな、ななと違って」
それでも、昔から、なぜか、お兄ちゃんにだけは、喧嘩を売ることができる。
他の人にはぜんぜんできないのに、お兄ちゃんに対してだけは、怒りの感情をぶつけることができる。
「ななみたいに『どうせ俺なんか』って、自分の限界を自分で決めて、諦めたことなんか一回もないんだわ、俺は」
それは、お兄ちゃんが、わたしの全部を受けとめて、同じ熱量で応戦してくれる、絶対的な安心感があるからだ。
だから、最後には負けてしまうとわかっていても、なにかあったときには、いつも、こうやって、お兄ちゃんに八つ当たりをしてきた。
「バカなやつだと思われたくなかったから、それなりに勉強もしてきたし、レギュラーになりたい一心で、部活もめちゃくちゃ頑張った。友達だって、自然発生したわけじゃねーよ」
兄は、愚かな妹を諭すように、淡々と言葉を紡いだ。
「あのな。自分から欲しがらない限り、ほとんどのもんは、手に入らないんだよ。まあ、そうしたところで手に入らないもんも、腐るほどあるけどな。それでも、ただじっと待ってるだけじゃ、チャンスさえ与えられないんだよ」
兄は、迷子の妹を導くように、力強い声を出しつづけた。