そして君に最後の願いを。
プロローグ
ハンカチで額に滲む汗を軽く拭き取ったあと時間を確認すると、もうすぐ十五時になろうとしている。
バッグからペットボトルの水を取り出して喉を潤し、ふーっとひと息ついてから再び歩き始めた。
九月といってもまだ暑さは続いていて、日中の気温は八月とそう変わらない。
駅前の町役場から歩くとなるとやっぱり遠いけれど、タクシーを使うことは考えなかった。
歩いた方が気持ちがいい。
小さな石が転がり、あちらこちらに草花が生えていて、右も左も同じような田んぼが広がっている。
何年経っても記憶からなくなることのない美しい山々も。
そう言えば、森美町(もりみまち)という名前の由来はなんだったっけ?
美しい森に囲まれているからだったか、元々なにもない所に長い年月をかけて森を作ってきたから……というのも聞いたことがある。後でまた役場に行って聞いてみよう。
そんなことを考えながらしばらく歩いて目的地に到着すると、一通りやるべきことを終えた私は、彼の前にしゃがみ込む。そして真っ直ぐ視線を向け、微笑んだ。
「あのね、すっごく大変だったんだよ。でも、とても楽しかったかな」
毎日毎日悩んで頭を抱えて、考えすぎてダメだと思った時はついついスナック菓子に手を伸ばしてしまったり。かと思えば、昔の写真を見ていたら突然なにかがパッと降りてきたりもした。
とても大変だったけれど、泣いたり笑ったりしながら一人で色んなことを思い返すことが出来た時間は、幸せだった。
私がこうやって夢に向かって突っ走れたのは、あなたのお陰だよ。
「今から読むから、ちゃんと聞いてね」
◇◇◇