そして君に最後の願いを。
最後の夜
山の麓にある集落から山沿いに続く道を歩いていると、一月に降った雪は完全にその姿を消し、青々と生い茂る木々が春の始まりを告げている。
何十年何百年という歳月を経て立派に育った山の木々、田んぼや畑から聞こえる虫の声。
どこまで歩いても代わり映えのない風景が続いていて、道端に咲く花の色が季節ごとに変わるだけの本当になんの変哲もない田舎道。
けれど私達は、この景色が好きだった。子供の頃から変わらない森と、綺麗な空。
「どこ行くんだー?」
「しげ爺ちゃん!森美(もりみ)神社だよ!」
「気をつけてなー」
畑仕事をしている近所のしげ爺ちゃんに手を振ると、こちらに向かって大きく手を振り返してくれた。
道端で誰かに会えば、みんな必ず声をかけてくれる。こんなやり取りも昔から数えきれないほどしてきた。
けれどなんとなくしげ爺ちゃんの姿が少し小さく見えてしまうのは、私達が成長したからなんだろう。
人や山や道、目に写る全てが大きく見えていたはずなのに、今はその全てが昔よりも小さく、あるいは狭く感じるようになった。
この町はいつまで経っても変わらないけれど、幼かった子供は段々と成長し、そしてこの町を出る時がやってくる。
その瞬間のことを思うと言いようのない寂しさばかりが心を支配してしまうから、出来るだけ考えないようにしてきた。
都会に憧れがないわけではないし、田舎暮らしに不満がないわけでもない。実際何度か東京へ遊びに行ったこともあるけれど、帰って来た時に思うことはいつも同じだった。
『遊びに行くなら都会だけど、暮らすならやっぱりここがいいや』
もちろん私達とは真逆の考えを持っている子もいて、実際全寮制の高校を選んでこの町を離れて行った友達や、卒業を心待ちにしている友達もたくさんいる。
でもどうしてなのか、私達は一度もこの町を離れたいとは思わなかった。
それは多分、分かっていたから。口には出さなくても、成長するにしたがって気が付いていた。
毎日会って遊んでくだらないお喋りをしたり、時には喧嘩して……そんな日々が、永遠には続かないことを。
みんなそれぞれやりたいことや目標が出来て、いずれ別々の道を進む時がやってくる。
だからその瞬間まで、私達はこの町で大切な友達と一緒に過ごそうと心の中で決めていた。
二度と戻れない青春時代を、大切な仲間と……。