170回、好きだと言ったら。
○テルくん心が痛いです
佐久間さんから聞かされたお兄ちゃんの過去はとても一言では言い表せないものだった。
「…沖宮はな、初め大人しくて喧嘩なんて無縁そうな男やったんや。
やけど、家に帰ることは少ない男で、どこに行ってるんかと思えば、飛澤ンとこやってん」
「…お兄ちゃんが? どうして……」
あたしの憶えている限りだと、お兄ちゃんはあたしが幼い頃から家に帰らないイメージがあった。
あの頃は一週間に一度、お父さんが帰宅するくらいで。
それ以外はずっとテルくんと一緒にいた。
「アンタ…、誘拐されたことあるやろ?
昔、飛澤ンとこの奴等に」
身に覚えがない話に首を傾げると、無理もないわと佐久間さんが口を開いた。
「あの時は…俺達がまだ中学一年でアンタは小学生やったはずや。
バイクを持ってなかった俺達は、暇つぶしに喧嘩するくらいで、それを見守っとるんが沖宮やってん。
そんなある日、真夜中に俺の家に来た沖宮が顔面蒼白って言葉通りな、ほんまに顔色が悪くて。何事かと思ったら《みーちゃんが連れ攫われた!》って」