170回、好きだと言ったら。
《好きだから離れる、なんて俺と同じバカなこと考えたら後悔するよ》
実衣の兄貴は実衣を守るために自分から遠ざけた。
それが一つ目の理由だ。
そして二つ目、実衣の兄貴は俺の気持ちを知っていた。それ故に、俺に説教をしながらも守る役目を譲ってくれたのだ。
《え? 俺が照道にみーちゃんを託した?
違う違う! 照道には難しいかも知れないけどね、一度離れたら二度と昔には戻れないんだよ》
アイツは否定していたが、俺にはすぐに分かった。
俺も一度、実衣を遠ざける為に「キライ」という言葉を使った。それでもアイツは何事もなかったように笑って、また俺に近寄ってくる。まるで小動物みてぇだ。
突き放そうにも実衣は俺の傍にいようとするから。
俺は突き放し方を忘れてしまった。
実衣の兄貴のように、いつ自分がいなくなってもいいように傷つけることなく、離す方法を俺は出来なくなってしまったのだ。