170回、好きだと言ったら。
あまりにも動かないため、気になってしまったあたしはつい話しかけてしまった。
「あ、あの…何かお困りですか?」
すると男性は振り返ってあたしを見るなり、どこか困惑した表情で頭をかいた。
「実は一人暮らしの身でして、晩御飯何にしようかと悩んでいたんですよ」
「そうなんですか…? だから野菜をじっと見つめて…。てっきりどの野菜にするか見極めてるのかと思いましたよ」
クセのある髪をした男性は「野菜の知識なんてこれっぽちもありません」と笑いながらまた野菜へ視線を落とし、ずり落ちた黒縁のメガネをかけ直すと口を開いた。
「僕、人参が好きなんですけど、結構幅広く人参を使う料理ってあるじゃないですか。
だから今晩の主食を考えてて…」
「私は今日麻婆豆腐にしようか悩んでて、豆腐が安い日だったので決められたんですよ。
だから今日安いものを見つつ考えてみたらどうでしょうか?」
広告のチラシを一枚持ってきて見せれば、成る程と言わんばかりに頷いてくれた。