170回、好きだと言ったら。



「…あ、名前聞きそびれちゃったや」


でも、もう会えない人かも知れないし。
あそこで急に名前を聞いたり連絡先を知ろうとしたら、逆に気味悪がられたかも知れないからね。


見えてきたテルくんの家に足を止めると、渡された鍵を使って「ただいまー」なんて言ってみた。


「実衣、遅ぇ」

「あれ! テルくんっ!??」


暗闇の玄関からのそりと人が近づいて来たため、思わず悲鳴を上げそうになった。よくよく考えればこの家にいるのはテルくん一人なのに。


「今日は仲間とバイクで走り回るんじゃ…?」

「…別に、意外にも飽きるのが早かったんだよ。早く飯作って風呂沸かせ」

「もう、テルくん本当に横暴!」


それでもテルくんがあたしの手を引いて、家の中へ連れて行ってくれたり、無言でエプロン渡してくれたり、小さな気遣いがとても嬉しい。

あたしの持っていた袋に気づくと、その中身を覗くようにテルくんが腰を屈めた。


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