170回、好きだと言ったら。
◎二人とも遠回りは止めようね
病院に運ばれた一人の女の子―、沖宮 実衣は意識がない状態だった。
救急隊員が現場に駆けつけたときには出血量が酷かったようで、彼女に後遺症が残る可能性があった。
緊急治療室前の長椅子に腰掛けた彼女の知り合いは、先程からうな垂れたままぴくりとも動かない。
「…こんな夜遅ぅに呼び出して悪かったな、えっと小野瀬やったっけ?」
「い、いえっ…わたしの親に許可を頂いたので大丈夫です…!
それより沖宮さんの容態は…」
「…頭を鉄パイプが掠っただけで、それ程重症ではないわ。ただ、彼女が目覚めない限り何とも言えないわね…」
「そんな…」
ぽろりと涙を零した彼女に、心を痛めた潤は何も言うことが出来なかった。
小野瀬の隣に座っていた桃妃子もそれ以上は口を閉ざしたままだ。
そんな彼らの正面の長椅子に腰掛けていた鞠は、ずれかけたメガネを取ってあふれ出した涙を拭った。