170回、好きだと言ったら。
後で飛澤は問答無用で10発は殴ってもいいだろうか。きっと実衣の兄貴だってここにいたならば賛成しただろう。
目の前でぴーぴー泣く実衣を愛しいと思いながら、貯金していた全財産で買った安物の指輪に後悔した。
本当は立派な指輪を買って実衣に渡して、それからプロポーズをしたかったのだが、俺には時間が足りなさ過ぎた。
実衣は知らねぇだろうが、男っていうのは意外にも結婚に対して、真剣に考えているものだ。
責任の重大さと、簡単には言えない「結婚をしよう」と言う言葉の重み。
そしてようやく思い出せた《170回、好きだと言ったら》の後に続いた言葉を。俺は実衣に伝えることが出来た。そうだ、結婚を前提に付き合おう、だった。
俺は死の可能性を乗り越えて、ようやく今を歩き出せた気がした。
散々遠回りをしてしまったし、気づけば小鳥遊の野郎が実衣に惚れていた。佐久間から聞かされたときは殴る対象が増えたと思ったがまあそれは置いておこう。