170回、好きだと言ったら。



さりげなくあたしの手から髪ゴムを取ったテルくんは、ブラシで髪を梳かした後、あっという間に結んでくれる。


昔からあたしより手先が器用だから、髪を結ぶのだってあっという間なのだ。
本当に凄い、テルくん。



「…学校、行く前にはほどけよ。……変な虫が寄って来られても困るからな」

「ん? 何て?」

「…飯。お腹空いたんだよ」

「ちょっと待っててー!」


ゲホッ、と昨日と同じ様に咳き込む声が聞こえた気がして振り返れば、テルくんはぼんやりとテレビを観ているだけだ。


…? 最近、テルくんが咳き込むの多い気がする。気のせいなのかな、本当に。



少し気になってテルくんの顔を覗けば、珍しく目を見開いてあたしから距離を取ったテルくん。


微妙に傷ついたけど、急に近づいたあたしもあたしだ。


「テルくん、具合悪いの? 咳き込んでるけど大丈夫?」

「…い、やそんなわけねえだろ。それより遅刻すっから飯」

「そっか? ごめん、今作るね!」


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