170回、好きだと言ったら。
いつもの《はちみつば》スーパーに向かう途中、道端でうずくまる男性を発見した。
一瞬話しかけるのをためらうような、上下真っ黒なジャンパーとジャージズボン。
でも、杜禰リマさんの言葉にあったように“苦しんでいる人間は、自分と同じ人間で、助けることに理由はいらない”って書いてあったし…。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
思い切って話しかけると、男性はこちらへゆっくりと視線を向けた。
「あれっ…? あの時の…!」
「…人参の料理教えてくれた人ですね…?
すみません、お見苦しいところを見せてしまって…」
「そんなっ、大丈夫なんですか? 何かあったんですか?」
「ちょっと厄介ごとに巻き込まれただけですから、大丈夫ですけど…。喧嘩をしてしまって。
情けない話ですね」
「じゃあ怪我を…?」
あたしも腰を屈めて、男性の顔色を窺えば、本当に苦しそうだ。何か水を飲まそうと、近くに自動販売機があったかな、と思考をめぐらせる。
「……僕、もう大丈夫ですから。貴方もここから離れた方がいいですよ」
「ええ! 苦しんでる人をほっといたら駄目だって、杜禰リマさんの言葉にもあったんでそれは絶対出来ません!」
「杜、禰…?」
「…? どこかやっぱり痛いんですか?」