170回、好きだと言ったら。
その場からあたしはためらいながらも走り出すと、バイクのエンジン音が遠ざかる。
だ、大丈夫なのかな、あの人は…。
それよりもテルくんに連絡入れないと―、と思いながら携帯を鞄から探そうと思って我に返った。
鞄…さっきのところに置いて来ちゃった…!
ど、どうしよう! 取りに戻ったほうがいいよね…? 変に悪用されても困るし…。
「何戻ろうとしてるんですか、こっちです!」
「え! きゃっ!!」
振り返った瞬間、さっきの男性があたしを抱き上げた。お、お姫様抱っこなんてテルくんにしかされたことないから恥ずかしい…!
あ、鞄持ってきてくれたんだ…。男性の手にあたしの鞄があることにほっと胸を撫で下ろした。
「…面倒なことになりましたね。まさかあちらも僕を捜しに動いていたなんて」
男性が連れて行った場所は、一つの古びたアパートだった。
まるであのカフェと同じみたいだな、と失礼なことを思ってしまう。
錆びた扉に鍵を差し込んだ男性は「中に入っていいですから」とあたしを招いた。