彼女の罪について
ハッピーエンド
「ハッピーバースデー由梨加」
この夜のために予約していた人気のダイニングバー。私がワイングラスを軽く持ち上げると、向かい合って座る今日の主役は、へらりと嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとー! かんぱーい」
「つっても1週間早いけどねー。当日は愛しの彼氏様に取られちゃったから」
「あははごめんよ、でも毎年こうして頼子にお祝いしてもらえてしあわせ」
由梨加は中学時代からの親友で、社会人になった今もたまに旅行に出掛けたり互いの誕生日が近くなると都合をつけて祝い合ったりするほど仲が良い。
何年経っても変わらない。
笑い方も話し方も。
お酒を飲めるようになって、働き始めて取り巻く環境が変わっても、こんなふうに顔を合わせた瞬間、何度だって“あの頃”に戻れるような相手がいるって本当に素敵なことだと思う。
「で、当日はどんなご予定で?」
「よくぞ聞いてくれました。来週は大ちゃんと一泊二日で温泉です!」
「うわ〜幸せ者め」
「大ちゃんが全部計画立ててくれてるんだよ、もうすっごい楽しみ」
……でも、全部が全部、変わらないわけではない。
“あの頃”はなかったもの――3年目の記念日に恋人からプレゼントされたという、小ぶりのストーンがあしらわれた指輪。
右手薬指に嵌めたそれを愛おしげに見つめる由梨加は、心底幸せそう。
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