彼女の罪について
彼女が知れば何と言うだろうか。
彼女が彼と過ごしたほとんど同じだけの時間、私は彼と情事を重ね、
秘密と裏切りを、重ね続けているということを。
「それに、今回は特別なんだよ」
「……特別?」
「由梨加にプロポーズしようと思ってる」
ベッドに横たわったまま動かない私の髪を撫でながら。彼は何度も触れ合ったその口で、迷いのない声で、そう告げてくる。
その瞬間、胸の中で不意に、何かがほろほろと砕けていくような音がした。
プロポーズ。右手薬指の指輪。
幸せそうにほころぶ顔。
彼は、彼女との結婚を選ぶ。
……ああ、ついに来たのか。
この時を、この言葉を、
私は、ずっと。
「……じゃあ、私はもうお役御免ですね」
……仕事で知り合ったというのは、嘘だ。
彼とは4年前、由梨加と一緒に訪れた旅行先での体験教室で出会った。
偶然にも地元が同じで、会話が弾んだ。いつか時間が合うときに食事でも、と連絡先を交換した。
はじめに言葉を交わしたときから由梨加は彼のことを意識していたし、彼もまた、私よりは由梨加の方に気がありそうだと薄々感じていた。