彼女の罪について
 


そして思えばあのときから、私は彼にすべてを見透かされていたのだ。

私の視線に。それが纏う温度に。彼は最初から気付いていた。

だからこそ彼女が、


由梨加が、選ばれた。



「お役御免だなんて、この期に及んでそんなこと言わないでよ」

「……」

「俺とヨリちゃんは一心同体でしょ。ふたりでひとつじゃない」


彼の注ぐ愛は、彼の紡ぐ言葉は、残酷だ。
どこまでもどこまでも、一途で、迷いがなくて、純粋で。


「……由梨加と結婚したいんでしょ? そう決めたなら私はもう、」

「俺たちにはヨリちゃんが必要なんだよ」



――どこまでも、残酷だ。



彼の愛は、一方向のみに向くことを拒む。

例えば、どんなに好きなものでも食べ過ぎてしまえば胸焼けし、胃はもたれ、しばらく目に入れたくなくなるほど苦しくなってしまうように。

一途に過ぎた愛は、欲は、些細なことで燻り、やがて嫌悪となり、憎悪となり、一気に冷めて破滅する。


彼は一途すぎるがために、たったひとりを愛し続けることができないでいた。


 
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