彼女の罪について
 


「さみしいけど仕方ないし……俺の方はまだいいんだよ、別れるだけで済むんだから。でもヨリちゃんはいいの? 全部由梨加にバレちゃっても、」

「っ、やめて!!」


思わず伸ばした手で、彼の口を塞いだ。
心臓が激しく脈打ち、その音が胸を突き破って鼓膜を揺らす。

瞬きができない。
うまく呼吸ができない。
手の震えが止まらない。

嫌だ。
嫌だ。


いやだ。



ゆりか、




「……大丈夫、そんなことしないよ。俺はヨリちゃんから大事な彼女(ひと)を奪ったりなんてしない」

「……う、ぅ、」

「ヨリちゃんも、由梨加のこと大好きだもんね。ずっとずっと、由梨加のことだけ見てきたんだもんね」


彼はもう片方の手で口を覆った私の手を優しく外し、そのまま冷えた頰に触れ、溢れ出ていた涙をそっとすくった。


「本当のことを言って失ってしまうのは、こわいもんね」



――4年前私たちと初めて会ったときから、彼は知っていた。

私が中学生の頃からずっとずっと、誰にも言わず、自分の心の内だけに大切にしまい込んでいた秘密を、見抜いていた。パンドラの箱の鍵はとうに彼の手中にあった。


だから私はあの日、彼の手を取るしかなかった。
その手が鍵を、決して離さないように。

彼女がずっと、何も知らず私のそばにいてくれるように。


 
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