そのくちづけ、その運命
「あの、どうかしました?」

お客さんにそう声をかけられて、現実に引き戻される。

平静を装いつつも、私はかなり動揺していた。
男は苦手だ。声も無駄に大きいし、それに…

「あ、すみません。こちらのサンドウィッチ、からしマヨネーズはお付けしますか?」


注文を取り終え、厨房に戻ろうとすると、
先ほど来店した青年を樋口くんが接客しているのが目に入る。
なんだかとても親し気だ。

あぁ、樋口くんの友達だったのか。

妙に納得しながら、歩みを進める、
その途中、その人が不意にこちらを見た。

そして歩き際、ばっちりと目が合った、気がした。
気のせいだと思いたいけど…

ドク、ドク、と心臓が音を立て始める。

今、目が合った……!?

というか、見惚れてたのばれた!?

最悪………

しかし、さらに信じられないことが、次の瞬間起こった。

私の方を見たまま、ふっと笑ったのだ。

え?私?
微笑みかける相手私であってますか?

直接行って確認したくなったほどだ。



私はこの手の緊張感に慣れていない。

ドクドクドクドク……

お願い、はやく静まって……!!

心臓が激しく音を立て始めるのを感じながら、私は慌てて下を向き厨房へ向かう。




< 10 / 66 >

この作品をシェア

pagetop