そのくちづけ、その運命
「よー、ごめん遅くなった」
「おそいぞー」


「あ、ごめん井上さん。こいつのことわかる?」


またしても頭に大きなはてなマークが浮かぶ。
わかるわけないでしょ!!
なんで私がこの人のことを知っているかのような口ぶりなの…?

そう思ったが、慌てて首を横に振った。

「知らないって」
「連れてきてくれてありがと。またあとで」
そう言って彼は軽やかに手をひらひらと仰ぎ、樋口くんを見送る。

何もかもが洗練された動作に見える。

とはいえ。

え……これ奇想天外とか、青天の霹靂とか、そういうの以上なんだけど。

何この状況。

私井上実琴と、目の前には知らないはずの、だけど私の心をここまで高ぶらせる人。

呆然と彼を見つめてしまっていると、

「えっと、ごめんね?
オレが雄二に頼んだんだ」

彼は少し照れくさそうに首の後ろをかいた。

「実琴ちゃんと話したいって」

その間、私はその動作の一つ一つ、そして彼の表情を食い入るよう見ていた。
いや、見つめてしまっていた…と言う方が正しいのかもしれない。

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