そのくちづけ、その運命
今までの人生20年間、恋愛とか、そういう甘い響きのものには一切無縁な人生を送ってきた。

だからかな、物事を斜に構えてみるようになったのもそのせいかも…。

まぁ、でも血の通った女なら
誰でも一度や二度くらい「運命」という言葉に
憧れることがあってもいいよね。

はは、私も一応女だったってわけだ。
それがわかっただけ良しとするか。

自虐的に思う。

私は一生誰も好きにならずに生きていくんだろうな。もちろん誰からも愛されることもなく。


…せっかく女に生まれたのだから、恋愛くらいしてみたかった。相手のこと考えながら、洋服選んで……とかしてみたかった。


…だから、色恋沙汰に縁がなかったとはいえ、そういうものに興味がないといえば嘘になる。


けれど。

「…もう手遅れだよね」

人は簡単には変われない。

私は男という男が望むような可愛らしい女子じゃないし、おしゃれにも無頓着だ。パーカーにジーンズというラフな服装が一番落ち着く。スカートなんて機会があっても穿きたくない。

私には恋愛なんて関係ない。恋なんてしなくても生きていける。

「今何時!?」

そこではっと我に返る。

時計の短い針がちょうど8の数字を指していた。

今日は土曜日。
午前11:00からバイトが入っている。

大学の割と近くにあるそのファミリーレストランは、働きはじめてもうすぐ9か月。

当初はただ生活費を稼ぐためだけに始めたバイトだったが、生活に溶け込んでしまった今となっては楽しみの一つになりつつある。

口下手で人見知りの私には接客のバイトは到底無理だと決めつけていたけど、最近では気にならなくなっていた。お客さんと話すのは意外と楽しい。

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