そのくちづけ、その運命
……とかなんとかうだうだ考え事をしながら準備を進める。

はぁ。面倒だけど、朝ごはん作ろう。
食パンと目玉焼きでいいか。


大学に入ってもう3年が経つけど、
自分が親元を離れて一人暮らしをすることになるなんて想像もしていなかった。

正直に言うと、高校までの私は単なる箱入り娘で、世間知らずの甘ちゃんだった。

だから、お母さんにいきなり
「あんた、大学は一人暮らしね」って言われたときは本当に驚いた。私は当然のように実家通いになるものとばかり思っていたから。

「今のうちに自立しておかないと、社会人になって後悔するよ」とのことだ。

確かに、大学生だし一人暮らしもいいよね。

そう思い、私は喜び半分不安半分で新たな生活をスタートさせたのだった。

私が住むこのアパートは、実家から10kmしか離れていない。電車なら30分程度で着く距離。
ほとんど地元から離れず、この場所で大学生活を送れていることをありがたく思う毎日だ。

この街はは好きだ。
田舎というわけでも、都会すぎるわけでもなく、ちょうどいい。
休日に遊べるショッピングモールもいくつかあるし。駅に隣接した映画館もできた。

きっと、私にはこういう空気感が合っているんだ。
山に囲まれているので、季節折々の表情を楽しめる。特に私は初夏の青々とした色が好きだ。生気に満ち溢れている。


今は6月初め。
つい最近まで5月だったので、気候もこまめに変わり、気温は上がったり下がったりする。

夏まであと少しだ。


けれど、一人暮らしをして本当によかった。

確かにお母さんが言ったように、以前とは見違えるほど自立できた気がする。
一人暮らしを始めた当初はホームシックで仕方なかったけど。

「やっぱり世間に出る前に、社会勉強しておくのは大事、と」

ついいつもの癖でつぶやく。
一人暮らしの唯一の欠点は独り言が多くなること。

「よし、できた」



腹ごしらえをしてから、私はアパートを出る。

「あ、また伸びたな…」

玄関の姿見の前で、肩のあたりまで伸びた髪を束ねようかとも思ったがやめておいた。

首を出すのはあまり好きじゃない。
高校生の頃は伸ばしていたからよく後ろに縛ってたけど…手入れするのも大変なんだよね。
スースーして落ち着かないし。

ふぅ。

行ってきます。

私は誰にともなくそう言ってドアを開ける。

……*……*……
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