そのくちづけ、その運命
絵を描くのは昔から好きだった。
自分を表現できる唯一の手段だとも思っていた。

頭のなかにあるもやもやとしたものを「絵」という形で、真っ白い画用紙の上に具現化していくのはとても面白い感覚だった。



ときどき、クラスメイトの友達が何人かで部活に遊びに来た。
俺はそんなとき、適当にあしらいながら、でもキャンバスから目を離すことなく、ただ絵の具を重ねていた。

そのときも油絵を描いていたのだと思う。


あるときその中の一人が言った。

「なぁ、絵描くのってそんなに楽しい?」

「楽しいよ?」

「へー。やっぱ真人上手いもんな。さすが美術部って感じ」

その口調には何か侮蔑の意味が込められている気がして、俺は返事をしなかった。

「知ってる?真人ってほかのクラスの女子に人気あるの。
なんか、いつもひとりで絵描いてるってキャーキャー騒いでた」

「ふーん…」

「オレも美術部入ればモテるかな」

そう笑って言ったクラスメイトはただ思ったことを口にしたのだろう。
笑いを取るつもりで。

それでも俺にはショックだった。
それと同時に、なぜ絵を描いているだけでここまで偏見を受けなければならないのかと、
その理不尽さにただただ胸を締め付けられた。

好きなことをしているだけなのに。


………*………*………


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