そのくちづけ、その運命
受験期の3年生に進級しても、俺は美術室で相変わらず絵を描いていた。
他の3年は、勉強に専念したいからという理由で部活に来るのをやめたようだった。

しかし、そのころの俺は純粋に描くことを楽しめなくなっていた。

やっていることと心のなかで思っていることの間には大きな溝があって、
表現したいものを描けなくて、いつもイライラしていた。

その黒い感情は当然絵にも表れる。


そのころになるとすでに、
俺は、家族といるときも友達といるときも、底なし沼に陥っているような、常に暗い気分だった。

それを見かねた柊先生も、
「無理しすぎはよくないよ。たまには息抜きしたら?」とよく声をかけてくれた。



でも俺の耳にはもはや誰の言葉も届かなかった。


自分の中ではとっくに結論が出ていたんだ。

俺は才能がない、ただの凡人だってことに。


他の美術部員の描いたものを見ても息をのむほど素晴らしく、高校生とは思えない絵を描き上げている人たちも何人かいた。

彼らと比べると、俺の描いたものなんて、微々たるものだ。



誰の心にも届かない……。


……*……*……




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